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SFMT2011行動記録(2)

2Aを出て、沼の原湿原へ向かう。

大勢の声援を一気に背中に受けて、気分が高揚しがちなシチュエーションだが、一昨年、ここから袴岳まで(その時点で)女子1位の選手をずっと追走してしまい、終盤、地獄を見る羽目になった苦い経験がある。よって、今年はひっそりと地味に進む。

にしても、この区間のトレイル、底なし沼を思わせる泥濘具合で、まともに走れたものではない。
ゲイターが機能しているのでシューズ内はまだ大丈夫だが、トレイル両側の傾面を恐々進むだけでも、ズルッと足を滑らせてヌタ場で転倒しそうになる(実際、一度転倒して、右下半身は泥だらけになった)。不意打ちを喰らわないよう微妙なバランスを維持していくのだが、実は、腰に相当なストレスがかかっていたのかもしれない。

湿原を抜け、時々現われる薄ら登りをやり過ごすと、万坂峠の入り口に繋がる道路に一旦出る。久しぶりの陽射しに暑さを感じるが、昨年に較べたら格段に優しいはず。

万坂峠~袴岳の登りのインターバル区間も、必要以上に心拍を上げないようにセーブしながら進む。
前回は、突然変異で登坂マスターと化して先行者をガンガン抜きまくっていたのだが、今回は、後続に道を譲る回数のほうが多かった。レース中に真後ろで大声で喋られるのもあまり好きではないので、サッサと脇に避けて、ゆっくり補給をとりながら快適空間の確保に努めたりもした。

袴岳のピークで再度シューレースを締め直し、三つ目の重要区間に向かう。しばらくすると現われるスイッチバックの下りと、6km以上連続する兼俣林道の下りである。
この区間も、爪先や大腿筋の温存を第一に考え、かなり抑えて走る。
自分の理想としては、「1人も抜かずに、10人くらいに抜かれたい」。そんなイメージだった。
途中から、予想通りに水溜りと石コロ混じりの路面になってきたが、ゲータとインナーソックスの効果で快適だった。後方に熊鈴の音が聞こえれば、サッサと脇に寄ってペースダウンし、○に急ぐ後続選手にどんどん先に行ってもらう。
最終的に、7人くらいに抜かれて、下り切ってからエイドに続く緩い登りの舗装路区間で2人ほど抜き返したような気がする(…だって歩いてんだもん)。
本日の標高最低地点、3A兼俣エイドに到着。さすがに暑くなってきた。

<3A兼俣エイド 38.5km (予定:5時間4分 実績:4時間51分)>

 応援待機してくれていた弐号に、「(計画通りの)いいペースじゃん!余裕?」と聞かれ、「まあ、下りも抑えてきたし、それなりに順調」とハイドレに給水しながら応える。
「あ、でも、汗凄いね…」と指摘を受ける。いつもより多く汗をかいている実感はなかったので、ちょっと意外な気がした。
 ここはアシスタントポイントではないので、他人からのサポートは受けられない。従って、ポケットには、2Aから4A黒姫高原までの行動食が入っており、袴岳エリアでの補給回数を1回飛ばしたので、本当はここで消費して軽量化を図りたいところ。だが、つい、エイドの冷やしトマトを丸かじりしてしまう。気分転換には最高の逸品だから仕方ない。
最後に、カロリー摂取の目的で、甘いヌガーバーを無理矢理半分だけ腹に詰め、サングラスをかけて、いざ出発。

(休憩 予定:5分 実績:7分)

 関川沿いの長野側をちょろっと戻り、橋の手前の駐車場で大勢の声援に応えながら、新潟側に回りこむ。LSDより少し速いペースで、上流に向かってザッザッザッザッとリズムを刻んで行く。
ここから先は、温存ではなく、それなりに踏ん張る区間である。序盤の下りを執拗に抑えてきたのは、余力を持って、ここから中盤に向けて良い流れを作りたかったからだ。
 この区間の入りを、これだけリラックスして迎えられたことは試走も含めて一度もなかった。今のところ、シミュレーション通りの、完全無欠のレース展開である。

 森の中に較べれば陽射しは強いものの、時折吹き抜けていく風には秋を感じる。視界に入る先行者は1名のみ。とりあえず、その背中が近づくのを励みに、未舗装路を走り続ける。
選手同士の間隔がかなり開いていたものの、一人、二人、三人、と拾いながら、順位を上げていく。
親水公園の辺りには、かぶり水も用意されていたが、今日はそこまで暑くない。
高速道路の高架橋の下あたりに、大きな私設エイドが設置されていたが、前日の競技説明で「公式エイドとアシスタントポイント以外での補給は、自販機も含めて失格とする」という石川氏の明言があったので、そのままノールックでスルーする。

10数mほどの短い登り区間だけは速歩を交え、基本はLSDペースで進む。この付近でよく出遭う、深い藍色の蝶々を今日は見掛けないな~、などと考えながら、淡々と進んでいく。
流石に途中から単調な景色に精神的な疲労が出始め、補給のタイミングで100m近く歩いたりもした。その間、二人くらいに抜かれた。因果応報だ。

 遠くの対岸の高台に、高沢地区の建物が見え始めた。地震滝橋まで、もう500mはないだろう。
ちょっと気を抜き、食べかけのヌガーバーをかじりながら、最後の最後を歩きで締めてしまった。
それでも、皮算用的には、1/3くらい歩きの入る想定で作成しているので、かなり貯金が出来たはずだ。
下り区間での貯金は、やがて高利の借金となって跳ね返ってくるが、この区間での貯金は確実に財産になる。

いよいよ関川と別れの時が来た。橋の手前の誘導スタッフさんに挨拶をし、さて、ここから強気で行くぞ、と、自分の頬を平手でバンバン殴りながら走り出す。
 と、ちょうど車で巡回に立ち寄った石川氏が、窓を開けてエールを送ってくれた。
「どうも!」と右手で応えて、そのまま地震滝橋を走り抜け、高沢発電所へ続く舗装路を駆け上がった。

「駆け上がった」…のは、最初の数百mで終わった。舗装路の勾配が増してきて、たちまち速歩にトーンダウン…。わずかなトレイルを経由して再び舗装路を歩いて凌ぎ、ようやく登山口に到着。この区間、意外に消耗した。(今年、試走してなかったので、都合の良い甘い記憶に置換わっていたようだ。でも、3人ほど抜いた)

登山口から苗名滝分岐までの登りを、なんとか前傾姿勢で踏み込み続ける。段々と記憶が蘇り、あと1回ぐるりと回れば平坦になるはずだ、などと思い浮かべながら、トボトボ歩きの先行選手をさらに何人か拾う。

いよいよ分岐点に到着し、しばらくは平坦若しくは緩い下りのトレイルが続く。ここで走らなくて、一体どこで走るんだ!ってくらいの緩いコースなのだが、この期に及んで何故だか気持ちが盛り上がらない。前回のように、破れかぶれとも思える5分弱のペースで無意味に爆走して悪戯に足を終わらせる轍を踏むつもりは全くないのだが、それにしてもエンジンがかからない。
立ち止まって、しばらく遠くの景色をボ~と眺めたり、地雷也洞窟の案内板付近をのろのろ歩いたりしていると、登りでパスしてきた3~4人に次々と抜き返された。
遠ざかる最後尾の選手の背中を見送りながら、なんだか、嫌な汗をかき始めていることに気づいた。

それでも、ゆっくりと走り始め、ロープのある斜面を下り、丸太橋を渡り、土管を抜け、眺望が開けたあたりでさらに後続に追いつかれて、ようやく正気を取り戻した。

深呼吸をしてから「ウォー!」と雄叫びを上げ、気合を入れ直して、一人、二人とトレイルで抜き返す。さらに丸太階段の手前で一息入れている二人をパスして、ぐいぐいと登り始める。先行する選手が、「先に行って下さい」と脇へ避けてくれて、「どうもありがとう」と返事をした直後に、ビビビッと腰に例の電撃が走り、一瞬目の前が真っ暗に。思考と呼吸がその場で固まってしまった…。

 冷や汗がダラダラ出てきた。素人感覚では、まだ「致命的な」レベルには達していない感じがしたが、自分が採るべき選択肢は、もう悟っていた。今日は、そういう条件で強行出場しているのだから。

 そのままスローモーションのように階段を登り切り、一息入れる。後続に道を譲るつもりが、皆さん休憩中のようで、仕方なく、そのまま両手を腰の後ろに当てたまま、続く登り坂を一歩ずつ進む。

なんとかクリアしたが、やれやれ…長かったよ、ったく。またしても嫌な汗が背中を伝っていった。

あとは、緩い下り基調のトレイルが続くだけなのだが、果たして走れるのだろうか。

  (出来れば、駆け抜けて終わりにしたい)

そう思っていると、坂道を登り切った選手が、次々と自分の脇を擦り抜け、駆け出して行った。

  (自分も、あんな風に走って終わりにしたい)

 最初の一歩を踏み出すと、自然と身体は動き出した。が、当然、痛みは伴う。

  (ここまで、いい感じで来られたんだけどな…)

 両目に涙が溜まってきたのがわかった。

  (戸隠からが本当のレースだったんだけどな…)

 一筋、つつー、と右頬を流れていった。

  (でも、ここまで走れて良かったな。)

 気持ちが吹っ切れた。

左手のリストバンドを眺めた。
皮算用では、4A黒姫高原に7時間ちょうど、12時半に到着予定となっている。
兼俣で15分近く貯金があったはずだから、計画通りに進んで来れば、12時15分には着けたはずだ。

  (なんとか、それまでにゴールしたい。)

時刻は、正午過ぎ。正確な残りの距離はわからないが、過去の試走の記憶によれば、苗名滝分岐でスタッフに告げられた距離に、プラス1kmで考えておけば間違いなかったはずだ。

  (あと2km、長くても2.5km。これで全て終わり)

なるべく衝撃を和らげようと、路面の人工物は避けて、フカフカのところをゆっくり走る。
傾斜が緩いので、なんとかペースを上げられる。

もう、黒姫から先は関係ないのだが、「このあとも続行する場合のことを考えて、脚を売切らないようにしなくちゃ」などと、まだ考えている。

遊歩道の表示看板が時々現われるようになり、通過の瞬間にチラッと視線を送って、裏側の距離表示を確認する。

それほど速くは走れないが、やがて、先行選手の背中が見えてきた。
 彼等は、別にここが終点じゃないからな。

ゆっくり追い付き、しばらく後ろに並ぶ。
しばらくすると、「先に行ってください」と、右側を空けてくれた。熊鈴が煩かったかな。

そのままのペースで静かに走る。痛みが和らいできたような気がする。

小さな橋を渡ると、さらに前方に2名。こちらも、だんだん近づいて後ろに並ぶと、「お先にどうぞ」と道を譲ってくれた。

12時10分を過ぎた。見覚えのある朽ちた標識や大木が見えてきた。もう残りわずかだ。

最後は、前方に見えている選手を自分の意志で抜きに行った。ストライドを戻し、前傾を深くしてペースアップした。痛みは忘れていた。

近づいた背中に「右から抜きます!」と声を掛けて、前に出た。その先には、…もう誰も見えなかった。
クロノグラフは、6時間43分経過を示していた。

全行程の半分にも満たない距離でリタイアするのだが、自分にはある種の達成感があった。(怒られるかな…)

右目から、また涙がこぼれた。

間もなく、森の向こうに、ぽっかりと陽だまりが見えた。歓声も聞こえる。自分の終点だ。減速しなくちゃ。

大声援に迎えられ、4A黒姫高原に到着した。
ラップボタンは押したが、まだクロノグラフは計測を続けていた。

<4A黒姫高原エイド 51.5km (予定:7時間00分 実績:6時間45分)>

しつこく 続く…)

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